
小学校で帯分数を習ったけど、あまり使わない気がする…。なぜ習ったんだろう…?
今回はこんな疑問に答えていきます。
帯分数を小学校で教える理由はたくさんあるでしょうが、本記事では4つにまとめて紹介していきます。
まずはその4つの理由を簡単にまとめておきます。
- 数量の大きさがわかりやすいから
- 子どもの理解の助けになるから
- アメリカでは長さを表すときに使うから
- 関数電卓で登場するから
今からは、これら4つの理由についてもう少し詳しく説明していきます。
さらに「なぜ中学以降は帯分数を使わなくなるのか」についても最後に説明したので、最後までぜひご覧ください!
「教育・認知」の立場から
帯分数は、大きさがわかりやすい。
帯分数の最大のメリットの一つは、数の絶対的な大きさがわかりやすいということです。
例えば、
- ピザが \(\displaystyle\frac{11}{8}\) 枚ある
- ピザが \(\displaystyle1\frac{3}{8}\) 枚ある
と言われたときに、感覚的にピンとくるのは後者「ピザが\(\displaystyle1\frac{3}{8}\) 枚ある 」の方ですよね。ピザがどれくらい残っているのか、具体的なイメージがすぐに思い浮かびます。
しかし、前者のように「ピザが \(\displaystyle\frac{11}{8}\) 枚ある」なんて言われてしまうと「⁇」となります。というのも「\(\displaystyle\frac{11}{8}\)」を日本語にそのまま言い換えるとすると「8切れのうち11切れ」となるので、日本語としては意味不明なものになってしまうからです。
このように帯分数で表されることで、数の感覚的な大きさを把握しやすくなります。
子どもの理解がスムーズに
「数の感覚的な大きさがわかりやすい」というメリットは、子どもの教育にも及びます。
本節では、ネットで見つけた「まなびの函」というブログを引用しながら解説していきます。
まず「小学校でわざわざ帯分数は教える必要ない!」という意見に対して、ブログ著者はこう反論しています。
(前略) 初等教育で帯分数は必要ない、\(\frac{b}{a}\)の形のみで十分であり、「真分数」「仮分数」の区別も必要ないという声が数学者や数学に詳しい方から上がるのですが、子供の発達の特性を理解していないといわざるを得ません。極端に言えば、数学と算数は別物なのです。
「なぜ帯分数をあつかうか」学習支援 まなびの函 2006年7月24日 URL:http://malum.blog5.fc2.com/blog-entry-306.html
※太字引用者
「数学的に正しい」といった論点では意味がなく、教育の観点、つまり子どもにどう理解させるかという視点で考えるべきだとのこと。
じゃあ、子どもの理解はどう進むのでしょうか。ブログ筆者は次のように考えています。
量の理解は、まず感覚から始まります。たとえば棒の長さについて、あれはこれより長いといった比較から出発し、この短い棒3本分といった数量化、共通の単位による測定、小数、分数などのより正確な数量化といった過程をへて、ついには数そのものを抽象化して、それ自体を対象としてあつかうようになります。これは人類の歩んだ道ですが、子供の理解も概ね似たような道すじをたどります。
「なぜ帯分数をあつかうか」学習支援 まなびの函 2006年7月24日 URL:http://malum.blog5.fc2.com/blog-entry-306.html
※太字引用者
子どもは、数という抽象的な概念を理解するのがそもそも難しいのだと。私たち大人は当たり前のように理解できてしまうので、小学生も簡単にわかるはず、という誤解をしてしまいます。
そしてこのような姿勢で子どもに接してしまうと、いずれ弊害が出るだろうとブログ筆者は指摘しています。(↓)
数学的に正しい操作が出来ればよいという姿勢で子供に接すると、結局子供はいつまでもわけが分からず、出来の悪い機械のようなミスをくり返してしまいます。 (中略) 分数を量としてあつかうためには、どうしても帯分数が必要になります。真分数、仮分数、帯分数といった区別と相互変換の練習も、分数を量として理解するため、といってよいでしょう。
「なぜ帯分数をあつかうか」学習支援 まなびの函 2006年7月24日 URL:http://malum.blog5.fc2.com/blog-entry-306.html
※太字引用者
こうして分数の概念を理解できないでいると、数量の大きさをほとんど理解しないまま計算をしてしまうので、この弊害が後々大きくなるだろうとも考えられます。
以上まとめると、帯分数は小学生の適正な理解を養うために必要である、ということですね。
「使う場面がある」という立場から
では次に「帯分数を実際に使う場面がある!」という立場の意見を紹介していきます。
アメリカでは長さを帯分数であらわす
アメリカでは、ヤードポンド法が主流です。
つまりアメリカでは、長さを表す単位は「メートル」よりも「ヤード」「インチ」を使うことの方が多いということです。
さらにアメリカでは数字の表記の仕方も若干違っていて、小数よりも分数で表すことの方が多いそうです。例えば「2.5インチ」ではなく「2 ½ インチ」といった具合です。
僕は「本当か?」と思ったので、アメリカの通販サイトを見てみました。

上の画像は、あるアメリカの通販サイトでテキトーに検索して出てきた結果です。
下の方の「Dimensions」(=寸法)を見てみると、確かに
56 1/2” Wide x × 28 3/4″ Deep × 28 3/4″ High
と分数表記になっていました!
ここで注目すべきは「帯分数になっている」ということです。先ほど言ったように、帯分数のほうが数の大きさを認識しやすいからなのでしょう。
このように、帯分数が日常生活の中でガッツリ使われている、ということがわかります。
関数電卓に「帯分数表示」機能がある
関数電卓は、普通の電卓でできる計算に加えて、三角関数・指数対数関数・べき乗べき根・円周率・ネイピア数などを扱うことができます。
さらに関数電卓では、上の画像のように分数をそのまま入力できます(普通の電卓は小数を入力する必要がある)。その際、表示切替のボタンを押すと分数の表示形式を「仮分数 ⇄ 帯分数」のように切り替えることができます。
このように、帯分数は関数電卓でも登場するのです。
中学以降、帯分数を使わないのはなぜか
ここまで、帯分数が小学校で指導される理由を述べてきましたが、中には

中学生になってから帯分数使ったことないけどなんで?
と疑問に思う人もいるかもしれません。
その主な理由として、次の2つが挙げられます。
- かけ算・わり算に弱い。
- 文字式における「×」の省略と、帯分数における「+」の省略を混同する恐れがある。
1つ目の「かけ算・わり算に弱い」というのは、例えば
$$ \frac{20}{9}\times \frac{11}{8}= \frac{55}{18} $$
のように仮分数であればすぐ計算できるのに、帯分数の場合
$$\begin{align*}2\frac{2}{9}\times 1\frac{3}{8}&=\frac{20}{9}\times \frac{11}{8}\\&= \frac{55}{18}\left(=3\frac{1}{18}\right) \end{align*}$$
と少々手間がかかってしまいます。
また、中学数学では文字式が登場し、
$$a\times b = ab$$
のように「×」記号を省略することになります。しかしこれを習いたての生徒が、
$$ 3\frac{2}{3}=3 \times \frac{2}{3} = 2$$
と勘違いしてしまう恐れがあります(かけ算記号の省略は文字式のみが基本なのでこれは誤り)。
以上のような理由から、中学以降の数学では帯分数を扱うことはほとんどないのです。
最後に
今回は帯分数を習う理由4つを紹介しました。もちろんこの他にも論点はあるかもしれないので、自分で教育の歴史・分数の歴史などについて調べてみるのもいいかもしれませんね。
最後に、もう一言。この記事を読んだ後も「帯分数は使えないから教える必要はない、無駄だ」という人も中にはいるでしょう。しかし「使えない、要らない、」と不要な理由を探すばかりでは何も進歩はありません。それよりも「これは何に使えるだろうか?」と積極的に使い方を探していこうとする方が建設的な考え方なのでは、と個人的には思っています。
最後までご覧いただきありがとうございます。
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記事への意見・感想はコチラ
帯分数は「どの程度の大きさであるかを小学生に理解しやくすくするためのもの」と思っており同感です。
そして10進ではない単位を使っているアメリカでは確かに寸法は帯分数であり、インチネジ等も同じ考えですね。(帯分数ではなく特殊な表記にはなりますが… 例:1.25ネジは、1-1/4)ネジサイズはあまりにも普通に使っていたので気づきませんでした。どうもありがとうございます。
記載内容で気づいた点があるのでコメントします。(重箱の隅をつつくような内容ですみません。)
「かけ算記号の省略は文字式のみが基本」と記載されていますが、文字がなくてもかっこ付き計算式の場合は省略可能ですよね。
例:3 * ( 1 + 2 ) → 3(1+2)
太田文明 さん
記事をご覧いただき,ありがとうございます。
とのことですが,「数字のみの計算式でかけ算記号を省略してもよいか」という問題には賛否両論があるようです。
しかし私の意見としては,かけ算記号を省略することで式の解釈に相違が生じやすいため,数字のみの計算式ではかけ算記号を原則省略しないほうがよい,と考えます。
例として挙げていただいた「3×(1+2) → 3(1+2)」は,だれがどう見ても「カッコ内の1+2を計算し,それに3をかける」と解釈でき,とくに問題ありません。しかし「18÷3×(1+2) → 18÷3(1+2)」とした場合はどうなるでしょうか。計算の正しい順序に従えば,18÷3を先に計算してそのあとにかけ算を実行しますので答えは18となります。しかし 18÷3(1+2) と表記してしまうと,中には3(1+2)を”カタマリ”として捉え「3(1+2) を先に計算し,その後に割り算をするので答えは2」と考える人もいるのではないでしょうか。
※「かけ算記号を省略するなら割り算も分数表記にすべきでは?」と言われればそれまでですが…。(割り算を分数表記すれば解釈は一意に定まると思われます。)
このように,かけ算記号を省略すると混乱を招くおそれがあるため「かけ算記号の省略は文字式のみが基本」とかきました。
ただし,数字のみ計算式でもかけ算を省略するのが原則,という例もあってその一つが「2√2」のように根号を用いる場合です。文字はありませんが,ふつうかけ算を省略します(2×√2 → 2√2)。
説明どうもありがとうございます。
18÷3(1+2)
確かに。これは以前から論議されていた式ですね。
「原則省略しないほうがよい」というまっつんさんの考えを理解しました。
なお与式の場合、数学の答えはいつも1つであってほしい自分は計算順を正しく認識してもらえるよう次のようにかっこを付加するように心がけています。
18÷(3(1+2)) 又は (18÷3)(1+2)