
統計学で出てくる「幾何分布」ってあるけど、何が「幾何」なの??
今回の記事ではこの謎について調べてみた結果を共有します。
幾何分布の定義を見てみる
幾何分布についておさらいです。
まず、幾何分布を言葉で説明すると次のようになります。
幾何分布とは、ベルヌーイ試行を繰り返して初めて成功させるまでの試行回数 X の分布。
(Wikipedia日本語版「幾何分布」より)
わかりやすくコイン投げの話に言い換えると、こうなります。
幾何分布とは、確率 p で表が出るコインを繰り返し投げたときに、初めて表が出るまでに何回投げたかの分布。
この幾何分布についての説明を読んで、

なるほど!だから”幾何”っていうのか!
…ってなる人はいませんよね(笑)
おそらく私たちの感覚では
幾何 = 図形っぽい
という感じだと思うですが、この説明の中には図形的な要素は一つもありません。
どうやら、分布の意味の中には幾何という要素はなさそうです。
幾何分布の式、等比数列に似ていませんか
今度は、幾何分布の確率関数を見てみましょう。
確率関数は次の通りです。
\(k=1,2,3,\cdots\)に対して、
$$P(X=k) = p(1-p)^{k-1}$$
ちょうど k 回目に表が初めて出るのは、
・1~ (k-1) 回目はすべて裏
・k 回目は表
という場合なので、上式が成り立つわけですね。
さて、この式の形をよく見てみると等比数列の形をしていることがわかります。
公比が\(r\)の等比数列\(\{a_n\}_{n=1}^{\infty}\)の一般項は、
$$a_n = a_1\cdot r^{n-1}$$
でしたので、たしかに幾何分布の確率関数と同じ形をしていますね。
実は、これが幾何分布の名前の由来なのです。

え、どういうこと…?
と感じていると思うので、もう少し詳しく説明しますね。
等比数列の別名は「幾何数列」
先ほど、
幾何分布の由来は、等比数列から来ています
と言いました。
じつは、等比数列には別名があって「幾何数列」とも言うらしいです。
なぜ「幾何数列」というのかというと、英語では等比数列のことを Geometric progression と言うからです。Geometric は「幾何学的」という意味ですね。
つまり結論をまとめると、
幾何分布の確率関数は、幾何分布(=等比数列)の形をしているから。
ということになります。
ここまで読んで、

ふ~ん、なるほどねー
と満足された方はこのページを閉じてもらっても構いません。
…が、

じゃあなんで英語では”Geometric(幾何学的)”と言っているの?
等比数列のどこが幾何的なの?
という疑問が残る人もいると思います。次はこの謎についてみていきましょう。
等比数列はなぜ「幾何学的」なのか
等比数列は、図形を扱っているとよく登場します。
一番簡単な例が下の画像。

面積が2の紙を半分、半分、…としていくとき各領域の面積は等比数列になっています。
これは数学的に言えば
初項が1で公比が 1/2 の等比数列は2に収束する
ということになります。
$$\sum_{n=1}^{\infty}\left(\frac{1}{2}\right)^{n-1}=\frac{1}{1-\frac{1}{2}}=2$$
もう1つ例を挙げましょう。
下のアニメーションのように正三角形にトゲトゲを付け加えていく操作*をしていくと、じつはその面積は有限の値に収束することがわかっています。
*もう少し詳しく言うと、1つ前の三角形の辺の1/3の長さを1辺とする三角形を新たに付け加えていく操作。

この不思議な図形は「コッホ雪片」「コッホ島」と呼ばれているそうです。
ちなみに、北海道大学(2010年後期)の入試問題でコッホ雪片の面積の極限値を求めさせる、という問題が出題されています。僕も受験生の頃に解いたことがありますが、等比数列をつかって解きます。
このように等比数列は図形分野でよく登場するため、このことを意識して英語では「Geometric progression(幾何数列)」とよぶみたいです。
一方で日本では「等比数列」という呼び名が採用されていますが、これは名前から定義が想像しやすいということを意識してのことだと考えられます。
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